草取りに汗を流しながら、心地よい風にふと顔を上げると、目にとび込んでくる青々としたイネの波。
「今年もやっと、ここまで来たね…」時には雑草に負けそうになったり、動物たちに脅かされながらも、力強く成長する姿を見ていると、育てられているのは、お米じゃなくて自分たちの方なのではないかと思えてきます。
芽が出て、葉が伸びて、花が咲いて実をつけて、頭を垂れて黄金色に輝く…。そんなお米の一生と向き合い、いつも食べているお米は「タネ」であり、生命の塊そのものであることに気付かされました。
江戸時代から続く、我が柴海家では、年に一度の収穫祭で、糀(こうじ)とお米だけで作る「甘糀」を飲む慣習があります。
「昔は年に一回しか飲めなかったけどねぇ…」と、おばあちゃんが教えてくれました。甘糀は、お米を作っている農家にとっても特別な御馳走だったんです。自然に感謝し、収穫の喜びを分かち合いながら、甘糀を飲む。「がんばってきて、良かったね。」疲れた体にしみわたる、やさしい甘さ。まるで、お米が集めた自然のエネルギーを分けてもらえるようで「また来年もがんばろう。」そんな気持ちがわいてきます。
元気をくれる、私たちのお米を、甘糀を、もっとみんなに食べてほしい。ずっと日本人の胃袋を支えてきたお米ですが、時代とともに消費量が減ってきています。「たしかにパンは手軽で美味しい」そんな気持ちも良くわかる20代の私たち。だったらお米も、食べやすくスタイリッシュにアレンジしてみよう。そんな思いで、あの特別な日の「甘糀」を煮詰めたら、パンにもよく合うジャムになりました。
砂糖なしでも甘くて、発酵による旨味も加わる。煮詰める時に生まれる香ばしさやカラメルのような色、なめらかな食感。そして何より、自分たちが育てたお米だけで出来ていることが、安心で嬉しい。こうして、日本の伝統的なコメ文化・発酵文化・今の時代の人を再びつなぐ、どこか懐かしくてだけど新しい「甘糀ジャム」が生まれました。開発開始から5年、改良を重ね、やっと納得のいく商品になりました。
人気のテレビ番組「ぶらり途中下車の旅」でもご紹介いただき、大きな反響をいただきました。それでもかわらず「甘糀ジャム」が皆さまの食卓に並ぶ姿を想像しながら、完全手作業で一瓶一瓶、大切にお作りしています。
毎日の食卓に、お米の恵を、おすそわけ。
柴海 佳代子